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【1時間2,000ドル!?】米国の特許弁護士、費用相場はいくらなのか?

Photo by Aaron Burden on Unsplash


米国の弁護士費用には「高い」というイメージがつきまといますが、相場はどれくらいの金額なのでしょうか。

米国においては、特許明細書の作成などは1件あたり何ドルと固定金額で提示している一方、中間対応(特許庁審査官に対する意見書作成など)や訴訟対応などの業務についてはタイムチャージ(hourly rate)とする、という形態をとっている事務所も多くあります。

(例:Cislo & Thomas LLP)


タイムチャージとは

タイムチャージとは、クライアントのための業務などにかかった時間を計算し、1時間あたり何ドルとして請求する方式のことですね。

「かかった時間を1ヶ月ごとに後から計算する」方式では、翌月以降になって請求書が送られてこないことには、合計金額がわからない場合もあります。

弁護士費用を前もって想定しにくいというのは、依頼者側にとっては大きなリスクとなるでしょう。

弁護士側がその気になれば、実際よりも多く時間がかかったかのように偽って計算することも可能。

こうした側面が、タイムチャージ制を採用する米国弁護士に対して「高い」というイメージを持ちやすい要因のひとつかもしれません。


他方、「1時間いくら」の相場はどれくらいなのかについても気になるところです。

テキサス州には1時間2,000$(1ドル110円として、22万円)を請求する弁護士もいるとの噂……ですが、それって普通の弁護士と比べてどれくらい高額なのでしょうか?


特許弁護士の料金表には、特許出願手続きのなかで行われるひとつひとつの細かな業務に、それぞれ値段が付けられていることがあります。

しかし、事務所ごとに作業項目の内容も呼び方もそれぞれ違ったり、そもそも出願してみないと中間対応の業務量がどの程度発生するかわからなかったり。

結局のところ特許1件出願するのにトータルでいくらかかるのか、他の事務所と比べて高いのか安いのか、イメージがつかみにくいんですよね……。


その点、タイムチャージであれば「1時間あたりの金額 × かかった時間」のうち片方が決まっていますから、ある程度まで客観的に比較し、金額感をつかむことができます。

もう一方の所要時間は、弁護士の仕事の速さや品質、案件の難易度にも左右されるので、「出願1件トータルでいくらか」はこれだけでは判明しませんが、固定金額制よりはタイムチャージのほうが事務所ごとの比較はしやすいように思えます。


そこで今回は、このタイムチャージの相場に着目して調べてみました。


目次

米国の弁護士費用の相場

地域による違い

地位と経験による違い

弁護士費用は値上がりしている?

日本の弁護士・弁理士との比較

まとめ


米国の弁護士費用の相場

2016年の情報ですがこんな記事を見つけました。

 Legal Fees Cross New Mark: $1,500 an Hour


1時間1,500ドルを超える弁護士費用、という内容の米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)の記事です。

ニューヨーク等の大都市にある、米国でもトップクラスに高額な法律事務所では、M&Aや倒産、事業再生、反トラスト法関連などの案件にかかる費用が1時間$1,500近くに達し、最高でタイムチャージ$1,950の弁護士がいる可能性もある、と書かれています。

もっとも、これらはごく一部のエリート弁護士だけが請求できる例外的な価格であると記事では断っています。

米国企業の法務部門に対する調査によると、各企業が支払った弁護士費用のうち最も高い金額を全体で平均すると1時間あたり$875で、2015年の時点で3年前より27%上昇していました。

また38%の企業は、1時間$1,000以上の料金を弁護士に支払ったことがあるということでした。

特許弁護士についてはこの記事では言及がありませんでした。ただ、特許出願から訴訟まで担当できるような代理人は専門的な知識・経験が必要とされるため、報酬は一般的な民事事件を取り扱う弁護士と比べて高額になるだろうと予想されます。


別の記事には、特許弁護士に限った場合の相場が示されています。

Patent Cost: Understanding Patent Attorney Fees


2011年の調査によると、パートナークラスの特許弁護士が請求するタイムチャージの全米平均は$441でした。そのうち上位25%は、$535以上を提示しているようです。

特にニューヨークやボストン、サンフランシスコなどの大都市では平均で$555~$570とより高くなる傾向にあるとのことでした。


地域による違い

米国においても、大都市になればなるほど弁護士費用も高額になる傾向は各所で指摘されています。

さらに古いデータになりますが、2001年の調査では、経験の豊富な特許弁護士のタイムチャージは$275 から$400だが、大都市になれば$400から$800にまで上昇するものと見られています。

Patent Attorney Fees: Everything You Need to Know​​​​​​​


米国では収入や物価、不動産価格などに関する地域ごとの格差が大きいと言われています。物価や地価が高い都市の弁護士のほうが、料金も高そうだということは感覚的にもうなずける話かと思います。

特にオフィス賃料について考えると、賃料が高い都市では事務所を構えるためにより多くのお金が必要になるので、弁護士の収入は同じくらいであっても事務所として提示するサービス料金はより高額になるのではないかと思われます。

その傾向は、日本に比べて米国のほうがより顕著なのではないか?という仮説を立ててみました。


世界の高級オフィスの賃料を比較したデータがあるのですが、これによるとニューヨークのミッドタウン(ニューヨーク州、米国北東部)とアトランタ(ジョージア州、米国南東部)の差は約4倍あります。

そしてこれら2つの都市圏人口はそれぞれ約2000万人と500万人で、約4倍の差があります。

一方で日本について見てみると、東京(横浜を含む)と名古屋の都市圏人口比はやはり約4倍ですが、オフィス賃料の平均値は2倍程度の差に収まっています。

このように、米国のほうが都市ごとのオフィス賃料の差が大きいようです。弁護士費用を決定する多くの要素のうちの1つに過ぎませんが、参考にはなりそうですね。


逆に言えば、より小さな都市の弁護士であれば、比較的安い料金で弁護士を雇うことができる可能性が高まります。実際にユタ州・ソルトレイクシティ(都市圏人口は約110万人)の弁護士で、低価格・高品質であることを売りにしている例も見られました。

MtBook US Legal Services 在米日系企業・在留邦人のためのリーガルサービス


もっとも、人口が少ないということは弁護士の選択肢が減ることにもつながります。業務内容や経験などで求める条件を満たすような弁護士を中小都市で見つけ出すには、難易度も上がるかもしれません。


地位と経験による違い

たいていの法律事務所では、弁護士の職位、経験年数、資格の有無などに応じて、タイムチャージの金額を変えています。

料金表をウェブ上で公開している事務所や、弊社とつながりのある弁護士にヒアリングして確認したところでは、パートナークラスや経験年数15~20年以上のベテラン弁護士と比べて、中級アソシエイト、新人アソシエイトと経験の浅い弁護士になるにつれ、段階的に$50-$100程度安く設定されています。

また出願等を代理する米国の資格であるpatent agentは通例、同程度の経験のある弁護士に比べて低い金額で依頼することが可能です。

また、事務員であるパラリーガルにもタイムチャージが適用される事務所もあります。ベテランのパラリーガルになると、新人の弁護士よりも高い料金を取る場合もあるようです。


弁護士費用は値上がりしている?

お読みいただいている方の中には、昔に比べて米国の弁護士費用が高くなってきたな、と感じている方もいらっしゃるかもしれません。

冒頭のWSJの記事に戻ると、米国では弁護士の料金が年率3-4%ずつ上昇しているといいます。

ただし、基本料金は値上がりしているものの、同時にクライアントの要求に応じて当初の価格よりも値下げするディスカウントも、以前から行われているようです。

2006年ごろには実際の請求額は最初に提示された金額の92%でしたが、2016年になると請求額は83%にまで下がったということです。

またこうしたディスカウントは、大企業のほうが中小企業よりも提示される可能性が2倍高かったということも指摘されています。

全体的な値上げの一方で(クライアントの規模によって変わる)値下げも同時に進み、料金体系が複雑化していることも、弁護士費用の見積もりがより難しくなっている一因といえそうです。


日本の弁護士・弁理士との比較

最後に、日本の弁護士・弁理士の費用相場とも比較してみましょう。

弁護士については、「特許訴訟の代理人費用」というテーマで特許庁の調査データが公表されています。

特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関する調査研究報告書


これによると、2010年のタイムチャージの全国平均は3万3,860円で、地域ごとに見ると東京が3万7,000円、大阪・愛知県では2万3,000円と、およそ1.5倍の差がついたということです。

弁護士の地位・経験年数・事務所規模で分類すると、以下のような料金になると推測されています。



地位
経験年数
料金
大手渉外系事務所等
その他の事務所
ジュニアアソシエイト
3~ 4 年未満
20,000~30,000 円

15,000~25,000 円

シニアアソシエイト
4~10 年

30,000~40,000 円

25,000~35,000 円

ジュニアパートナー
7~15 年

40,000~50,000 円

30,000~40,000 円

シニアパートナー
15 年以上

50,000~70,000 円
(弁護士によっては

80,000 円以上)

30,000~50,000 円以上





現在、特許訴訟案件を取り扱っている弁護士事務所で、料金表をウェブ上で公開しているところを10箇所ほど調べてみたところ、おおむね1時間あたり3-5万円の範囲に収まっていました。(単なる法律相談の料金はこの金額には含んでいません)

とはいえ最大手の法律事務所は、クライアント以外に対しては料金表を公開していないところがほとんどで、トップクラスでは上表にあるような1時間80,000円以上を請求する弁護士も存在するものと思われます。

なお特許事件の場合、”事案の難しさと損害賠償の請求額の多さ”が必ずしも比例しないことから、日本でもタイムチャージで請求することが通常の民事事件よりも多いとのことです。

一方、弁理士についてはどうでしょうか。日本弁理士会のデータでは、中間対応の費用としてタイムチャージで請求する場合、おおむね1時間あたり1-3万円がボリュームゾーンのようです。

弁理士報酬アンケート結果 簡易版 (平成21年10月実施)


タイムチャージで見た場合、弁護士よりも弁理士のほうが一般に低料金であることがわかります。

とはいえ、タイムチャージで請求していない弁理士について、請求金額をかかった時間で割って計算するとしたら、実は弁護士と同等かそれ以上の1時間あたり料金になってくる場合もありそう。

ですので、依頼1件ごとの固定金額の場合は「どれくらいの時間や労力をかけてこの仕事をやっているのか?」という、タイムチャージを割り出すような観点をもって比較することが重要です。


まとめ

ここまでの情報で言えることは、

  • 米国のほうがトップクラスの弁護士費用はより高いが、平均的な弁護士であれば日本でも米国でもそこまで差はない
  • 米国のほうが都市間のオフィス賃料の格差が大きいので、大都市よりも中小都市で弁護士を探したほうが安い可能性がある
  • 米国では弁護士費用が値上がり傾向にあるが、大企業が求めるディスカウントには応じる割合も上がっている


といったところでしょうか。

米国弁護士の相場はこれだ!とはっきりした情報は示せないのですが、サービスの費用対効果を判断する基準として、金額感の参考にはなるのではないかと思います。


なお弊社では、複数の州・都市に所在する米国弁護士や法律事務所と「マイスター・グループ」として提携を行っております。

業務内容や予算に応じてさまざまな弁護士をご紹介することが可能です。下記ページにて、マイスター・グループ参加事務所を表示しておりますので、ぜひご確認ください。


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◆米国の特許年金制度をわかりやすくまとめてます!

  ひと目でわかる!米国特許年金の金額・期限【2019年最新版】 特許権を取得した後、権利維持のために支払う必要がある特許年金。 米国における特許年金制度は、日本と異なっている点も多いことをご存知でしょうか。 2018年に入って各種庁費用の改定が行われたこともあり、現状の制度を確認していきます。 株式会社ロジック・マイスター


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ロジック・マイスター 編集部

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