catch-img

外国特許調査、どこから手を付ける?-日本特許調査を手掛かりとして

Photo by Dino Reichmuth on Unsplash


事業を海外に拡げている企業、あるいはこれからの海外展開を見据えている企業では、外国特許の調査も必要になってきます。

しかし外国特許調査については、まだまだ苦手意識を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

あるいは、外国特許を調査すること自体は問題ないけれども、新たな事業分野に進出するにあたって外国企業の特許も調べておきたいというような場合に、どこから手を付ければよいかわからず困った、という経験のある方もいらっしゃると思います。

そこで今回は、より慣れている日本特許の調査をひとつの手掛かりとして、外国特許調査をスムーズに進めることができるようになる方法をご紹介します。


目次[非表示]

  1. 1.外国特許文献を読むハードルは下がっている
  2. 2.外国語の検索キーワードをどうやって決めるのか
  3. 3.日本特許を手掛かりに、外国特許調査を行う
    1. 3.1.① まず日本で、調査したい技術内容に関連した特許文献をピックアップ
    2. 3.2.② ①の特許やその外国ファミリーの引例/被引例の中から、関連する外国特許をピックアップ
    3. 3.3.③ ②の外国特許のうち、特に調査ターゲット技術に近い引例/被引例があれば、さらにその引例/被引例をピックアップ
    4. 3.4.④ ①~③でピックアップした特許から、特許分類・キーワードをまとめる
    5. 3.5.⑤ ④でまとめた特許分類とキーワードを使って、特許データベースの検索式を作成
    6. 3.6.⑥ 検索結果を確認し、検索式を調整
  4. 4.不慣れな分野の外国特許調査に慣れるために


外国特許文献を読むハードルは下がっている

日本で利用可能な外国特許データベースは現状、英語に翻訳されたものがほとんどです。そのため従来は、外国特許を調査するためには少なくとも英語の読解力が必要でした。

近年、機械翻訳技術の進歩によって、英語が苦手な人でも外国特許文献を読んで内容を把握することが可能となってきました。

機械翻訳特有の読みにくさはあるものの、その分野の技術について一定の知識があれば、問題なく内容を理解できるようになっていると思います。

しかし、外国特許について侵害予防調査などを行おうとすると、「英語が読めて、特許の内容がわかるかどうか」とは別の問題が出てきます。


外国語の検索キーワードをどうやって決めるのか

そのひとつは、特許調査で使う検索キーワード選定の問題です。

特許調査ではデータベース上にある調査対象の特許文献を検索するためにキーワードを利用しますが、調査している分野でどのような「特許用語」(特許文献で使われる専門用語)が使われていて、どれをキーワードとして使えばよいかを調べることは簡単ではありません。

例えば「錠に関する2つの部材を結合する」という概念に対して、日本の特許では「嵌合、嵌入、係合、係止、螺合、螺着、回動自在、回転自在、…」といった多様な専門用語で表現されています。これらを抜け漏れなくすべて拾い上げるのは、日本語でも面倒な作業なのがわかります。

まして、外国語の場合はさらに困難になることが予想されます。単に専門用語を直訳して検索すればよいわけではなく(そもそも適した訳が存在しないかもしれません)、日本語とは全く異なる発想で表現されている可能性もあるからです。


日本特許を手掛かりに、外国特許調査を行う

キーワード選定の問題は、日本特許の調査を起点として解決の手掛かりを得ることができます。

ここからは、その手順を簡単にご紹介します。


① まず日本で、調査したい技術内容に関連した特許文献をピックアップ

JP6892573 B2 「ウェアラブル情報端末」


今回、弊社出願を例として取り上げてみます。

この発明はざっくり言えば、「スマートウォッチの手首側に備え付けられたタッチパネルで操作できる」といった内容のものです。

調査するにあたって重要なのは、調査対象となる技術の「課題」「構成」「効果」をまず把握しておくことです。


課題:
小型のウェアラブル情報端末では、指で操作する際に画面が隠れてしまい、操作しにくい

構成:
(i) ウェアラブル端末で、
(ii) ユーザの腕に装着した状態で、表示画面がユーザの指によって隠れることなく操作が可能(実質的には課題)な外側面に存在するタッチパッドを有し、
(iii) タッチパッドへの操作を検出した場合、ディスプレイにおける当該操作位置に対応する位置にポインタアイコンを表示する

効果:
操作性の向上


今回はそれぞれこのように特定しました。

この課題・構成・効果に着目しながら、次の手順を進めていくことになります。


② ①の特許やその外国ファミリーの引例/被引例の中から、関連する外国特許をピックアップ

今回は米国特許を対象に調査を進めていきます。

①の特許やその外国ファミリーの引用文献(引例)/被引用文献(被引例)の中から、調査ターゲット技術に関連するクレームのある外国特許をピックアップします。

今回は①特許のファミリーであるUS9846453 B2の引例に、比較的近そうな内容の文献があったので、これを採用します。


US2014078086 A1


claim 1
A hand-held device, comprising:
a housing occupying each of a first plane, a second plane, and a third plane, wherein
(i) a first exterior surface of the housing occupying the first plane includes a first touch-sensitive area that is responsive to user touch;
(ii) a second exterior surface of the housing occupying the second plane includes a second touch-sensitive area that is responsive to user touch;
(iii) a third exterior surface of the housing occupying the third plane includes a display screen; and
a user interface module configured to cause display a user interface on the display screen, wherein the user interface module is further configured to interpret at least one of (i) user touch of the first touch-sensitive area as a command to interact with the user interface or (ii) user touch of the second touch-sensitive area as a command to interact with the user interface.

claim 7
The hand-held device of claim 1, wherein:
the first touch-sensitive area is a touch pad;
the first exterior surface is a physically opposite exterior surface from the third exterior surface; and
the user interface module is further configured to display a cursor control associated with the touch pad within the user interface.

[0003]
[...] As such devices increase in size, using a single hand to both hold the phone and manipulate the touch-sensitive display screen becomes increasingly difficult. Also, a user touching the screen temporarily blocks a portion of the screen from view.


タッチパッドの反対側に画面が来るという構成、タッチ箇所に応じて画面上にカーソルを出す構成がクレームに書かれており、またタッチすることで画面が覆われて見えなくなるという課題についても明細書に記載されています。

なお上記出願では、ウェアラブル端末ではなく”hand-held device”の発明とされています。

ただ、ウェアラブル端末は広義には「小型の携帯型コンピュータ」と定義されることがあるようです。このように、調査にキーワードを使う際には、同義語をいかに網羅するかが難しいところです。


③ ②の外国特許のうち、特に調査ターゲット技術に近い引例/被引例があれば、さらにその引例/被引例をピックアップ

続いて、②US2014078086 A1 の被引例の中に、調査対象と似た課題を持つ出願があったためピックアップしました。


US2016026305 A1


claim 1
A touch-sensing cover of a shadeless touch hand-held electronic device comprising a panel and a control unit, the touch-sensing cover comprising:
a cover comprising a cover body and a sidewall extended from at least a part of an edge of the cover body; and
a touch-sensing structure, at least a part of which is disposed on the cover body, wherein the touch-sensing structure comprises a plurality of detection points for providing an input position, the area of the touch-sensing structure and the area of the panel have a ratio relationship, the control unit converts the input position into a display position of the panel according to the ratio relationship, and the panel displays a visible sign at the display position,
wherein the cover is disposed on the side of the shadeless touch hand-held electronic device opposite the panel, and the touch-sensing structure is electrically connected with the control unit, so that a user operates the shadeless touch hand-held electronic device by the touch-sensing cover.

claim 2
The touch-sensing cover as recited in claim 1, wherein the touch-sensing structure is disposed on an inner surface of the cover facing the panel or on an outer surface of the cover against the panel, or a part of the touch-sensing structure is disposed on an inner surface of the cover facing the panel and another part of the touch-sensing structure is disposed on an outer surface of the cover against the panel

[0006] 
In a common and conventional hand-held electronic device with the touch function, the touch operations are all directly executed on the display panel. However, for the operation on the panel, fingers will shade the user's view or the functional item displayed on the display panel, such that the user may erroneously touch, by the finger, an undesired one of the items which are arranged in a high information content density on the display panel. [...]

[0043] 
[...] For example, when the user's finger slides on the touch-sensing cover 13 , the panel 11 will display a corresponding icon (such as an arrow or hand shape) which slides correspondingly.


こちらも②と同様、画面の反対側にタッチ機構を備え、タッチ位置に応じて画面上にアイコンを表示し、またユーザの指が視界を遮ってしまう課題があることなどが開示されています。


④ ①~③でピックアップした特許から、特許分類・キーワードをまとめる

ここまでにピックアップした特許文献に付与されている特許分類(IPCやCPC)を、調査対象に該当する特許分類としてまとめます。

また、課題・構成・効果それぞれでよく使われている表現・キーワードを抜き出します。


【IPC】

①の公報に付与されたもの

G06F3/00 計算機で処理しうる形式にデータを変換するための入力装置;処理ユニットから出力ユニットへデータを転送するための出力装置,例.インタフェース装置[4]

G06F3/03 ・・器具の位置または変位をコード信号に変換するための装置[3,8]

G06F3/033 ・・・ユーザにより変位または位置決めされるポインティングデバイス;その付属具(変換手段によって特徴付けられたデジタイザG06F3/041)[3,8,2013.01]

G06F3/0354 ・・・・デバイスまたはその操作部位と,平面または表面との間の,二次元相対運動を検出するもの,例.二次元マウス,トラックボール,ペンまたはパック[2013.01]


①のファミリーであるUS9846453 B2に記載されたもの

G06F1/00 グループG06F3/00~G06F13/00およびG06F21/00に包含されないデータ処理装置の細部(プログラム記憶式汎用計算機のアーキテクチャG06F15/76)[2006.01]

G06F1/16 ・構造上の細部または配置[2006.01]


G06F3/01 ・ユーザーと計算機との相互作用のための入力装置または入力と出力が結合した装置(G06F3/16が優先)[8]

G06F3/048 ・・グラフィカルユーザインタフェース[GUI]に基づく相互作用技術[2022.01]

G06F3/0487 ・・・入力デバイスによって提供される特定の特徴を利用するもの,例.2つのセンサを備えたマウスの回転によって制御される機能,または入力デバイスの性質によるもの,例.デジタイザが感知する圧力に基づくタップ動作[2022.01]

G06F3/0488 ・・・・タッチスクリーンまたはデジタイザを利用するもの,例.追跡されたジェスチャーによるコマンドの入力[2022.01]


H04W52/02 ・パワーセービング装置[2009.01]


※ ここで留意すべきは、同じ発明であっても各国の分類付与の担当者によって付与する分類が異なることです。付与する分類に関しての考え方の違いは、日本人と外国人とではより隔たりがあると感じられます。


2つ以上のピックアップ公報に共通して付与されたもの

G06F1/00 グループG06F3/00~G06F13/00およびG06F21/00に包含されないデータ処理装置の細部(プログラム記憶式汎用計算機のアーキテクチャG06F15/76)[2006.01]

G06F1/16 ・構造上の細部または配置[2006.01]


G06F3/03 ・・器具の位置または変位をコード信号に変換するための装置[3,8]

G06F3/041 ・・・変換手段によって特徴付けられたデジタイザー,例.タッチスクリーンまたはタッチパッド用のもの[8]


G06F3/048 ・・グラフィカルユーザインタフェース[GUI]に基づく相互作用技術[8,2013.01]

G06F3/0481 ・・・表示された相互作用対象の特定の特性,またはメタファベースの環境に基づくもの,例.ウィンドウまたはアイコンのようなデスクトップ要素との相互作用,あるいはカーソルの挙動や外観の変化によって補助されるもの[2013.01]

G06F3/0488 ・・・・タッチスクリーンまたはデジタイザを利用するもの,例.ジェスチャによるコマンド入力[2013.01]


【CPC】

①の公報に付与されたもの

G06F1/1613 ・・ {for portable computers (cooling arrangements therefor G06F1/203; constructional details or arrangements for pocket calculators, electronic agendas or books G06F15/0216; constructional details of portable telephone sets: with several bodies H04M1/0202)}

G06F1/163 ・・・ {Wearable computers, e.g. on a belt}


2つ以上のピックアップ公報に共通して付与されたもの

G06F1/1626 ・・・ {with a single-body enclosure integrating a flat display, e.g. Personal Digital Assistants [PDAs]}


G06F3/0488 ・・・・ using a touch-screen or digitiser, e.g. input of commands through traced gestures


【キーワード】

課題に着目

shade, shading, shadeless, block, blind

finger, hand

screen, display, panel, view


構成に着目

wearable, hand-held, handheld

icon, pointer, cursor, sign

touch-sensing, touch-sensitive, touch sensor, touch panel, touch-screen

correspond, position


⑤ ④でまとめた特許分類とキーワードを使って、特許データベースの検索式を作成

検索式案1

(CPC:(G06F1/163 OR G06F1/1626 OR G06F3/0488)
OR IPC:(G06F3/0354 OR G06F1/16 OR G06F3/041 OR G06F3/0481 OR G06F3/0488))
AND タイトル~クレーム:(wearable OR hand-held OR handheld)
AND 全文:((shad* OR block* OR blind*) AND (finger* OR hand) AND (screen OR display OR panel OR view))
AND 全文:(correspond* AND position)
AND 全文:(icon OR pointer OR cursor OR sign)


特許分類に関して、まずはピックアップした公報に共通して付与されているIPC、CPCを使うことを考えました。

ズバリの(調査対象に直接当てはまる)分類が存在する場合には、細分類まで含めた分類を使用して検索をしますが、調査対象に近い特許文献であっても、必ずしもその分類が付与されているとは限らないという問題があります。

場合によってはより上位の分類を使うことで、分類付与者やその国籍による付与分類の違いの問題を吸収できる可能性があるので、検索結果の母集団に応じて工夫する必要があります。


⑥ 検索結果を確認し、検索式を調整

検索式を検討する過程で、最初に①~③でピックアップした文献がヒットしているかどうかを忘れずに確認します。

検索式のヒット件数も見つつ(どれくらいの件数が望ましいかは調査目的や技術分野、また時間的余裕などによって異なります)、調査対象に近いものが多く含まれているか、またノイズが多い場合はどんなノイズが多い傾向にあるかを調べます。

そしてNOTコマンドでノイズを減らすなど調整を行い、最適と思われる母集団を作った上で、検索結果を見ていきます。


先ほどの検索式案1では、HMD・AR・スマートグラス関連、指輪型のもの、腕時計型だがヘルスケア関連など、調査対象に関連しないもの(ノイズ)が多くヒットする一方、②、③でピックアップした公報がヒットしないという問題が生じました。

そこで、IPC、CPCをより上位のもの"G06F1/16以下 OR G06F3/01以下"に変更するとともに、キーワードについても見直しました。

構成のキーワード“wearable OR handheld OR hand-held"に、類似した構成として考えられる”watch OR mobile”を検索式に加えます。

また、全文で検索するとノイズが多くなるので、検索目的に応じてクレームで検索するか、要約(abstract)で検索するか等の試行錯誤が必要です。

例えば今回の場合、表示を遮らないことが課題ですが、クレームには出てこないと思われる一方、要約内には登場する可能性があると思われます。

そこで“(shad* OR block* OR blind*) AND (finger* OR hand) “を要約で検索する等、段階的に検索式を作っていきます。

※結果的には要約部分にこの課題の記載がないケースも多かったため、全文検索としました。


以上をふまえて、①~③のピックアップ文献が含まれるように調整した検索式が以下になります。


検索式案2

(CPC:G06F1/16. OR G06F3/01.
OR IPC:G06F1/16. OR G06F3/01.)
AND 全文:(shad* OR block* OR blind*) & (finger* OR hand OR touch*)
AND 全文:screen OR display OR panel
AND タイトル~クレーム:wearable OR handheld OR hand-held OR watch OR mobile
AND タイトル~クレーム:icon OR pointer OR cursor OR sign
AND タイトル~クレーム:(correspond* AND position) OR opposite


なお注意が必要なのは、一度調査した後に、追加調査を行う可能性がある場合です。

既に調査した内容を重複して調査してしまうと効率が悪いため、キーワードの多用を避けること(キーワードを使えば使うほど、そのヒット範囲を除外して再検索することが難しくなります。最も簡潔な検索方法は特許分類のみで検索することです)、あるいはデータベースの特性で集合を除く検索ができるかなどを想定して、検索式を決めた方が良いかもしれません。


不慣れな分野の外国特許調査に慣れるために

以上のような方法で、特に新規事業分野に進出する場合のように、不慣れで経験不足の分野の調査であっても、日本特許調査の結果をベースにして海外調査を行うことができます。

分野ごとに特有の外国語表現について、何があるかよくわからない段階では、このようなやり方で慣れていくことをおすすめします。

皆様の外国特許調査に役立つことを願っております。

ロジック・マイスター 編集部

ロジック・マイスター 編集部

ロジック・マイスター編集メンバーが、特許・知的財産に関わる皆様のために様々な切り口からお役立ち情報を紹介します!

お問い合わせ

特許調査や外国出願権利化サポートに関するお見積のご依頼、
当社の事業内容についてのお問い合わせなどございましたら、
お気軽にご相談ください。

こちらの記事もおすすめ

おすすめの資料

新着記事

よく読まれている記事

タグ一覧

サイトマップ