これからの日本企業の特許マネタイズ - 特許ポートフォリオ形成とNPE活用のすすめ | ウェビナー開催レポート
2021/6/2(水)、ウェビナー「これからの日本企業の特許マネタイズ - 特許ポートフォリオ形成とNPE活用のすすめ」を開催しました。
当日のライブ配信では100名近くの方にご視聴いただき、大盛況となりました。特許マネタイズやNPE活用について多くの方が関心を持っているということをあらためて認識する結果となりました。
そこで今回は、ウェビナーの様子をダイジェストでご紹介いたします。
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第1部 「ロームの知財活動とNPE」
ローム株式会社 法務・知的財産部顧問 名倉孝昭 氏
創業者が学生時代に取得した特許を事業化するために創業された大手半導体電子部品メーカー「ローム株式会社」において、知的財産部に32年間勤務し、昨年の定年退職まで知的財産部の部長を16年間、直近では法務部長を兼務(5年半)、現在は、同企業の法務・知的財産部顧問として同社に勤務。
創業者から直接指導を受けながら経営に直結した知財戦略の企画立案・実行を行い、またアドバイザリボードを10年間務め、定時取締役会に出席し、適宜、経営陣に提言を行う。
数多くのライセンス交渉を経験し、特許技術議論および条件交渉(ビジネス議論)においてメインスピーカーとして20年以上にわたって交渉をリードし、特に米国における裁判、調停、仲裁など多くの係争案件をまとめ上げた経験を有する。
国内外の特許権の定期的な棚卸を行い、事業化に結びつかない休眠特許をNPEなどに譲渡することにより収益化を図り、また、譲渡対価を活用して他社からの特許購入費用に充当することにより、自社の特許ポートフォリオを強化する、いわば知財M&A活動も積極的に推進。2015年11月 巡廻特許庁シンポジウム特別講演
2020年11月 発明協会 奨励功労賞受賞
2021年3月 論文「ロームにおける知財戦略から見た特許の評価・維持管理」(技術情報協会出版「経営・事業戦略に貢献する知財価値評価と効果的な活用方法」)
名倉さんには、半導体メーカーの知財部門のトップとして長年にわたりライセンス交渉や特許マネタイズに携わってきたご経験から、経営的観点もふまえた考え方についてお話いただきました。
NPEの流れの中に身を置く
NPE業界の動きを知らなければ、知財制度全体の流れやその背景を掴むことができません。ご存知の通り、改正特許法(AIA)施行、IPR制度、そしてAlice判決など、2000年代以降の米国におけるNPEの活動は法改正や最高裁判例にも大きな影響を与えてきました。
こうしたNPE業界の流れを知らないままでは、いざという時とんでもない判断をしてしまう危険性があります。ときに激流もありますので、注意しながらバランスよく波乗りすることを目指しましょう。
「NPEに特許を売ると後々やっかいなことになるのでは」という懸念があることも承知ですが、経験上は今まで特にそんなことは起こりませんでした。仮にスタンディング等の問題で訴訟に巻き込まれることがあったとしても、それはそれで米国訴訟のトレーニングになります。
付き合うべきNPEとは
特許マネタイズに取り組むとき、特許は「売ったら終わり」というわけにはいきません。そのため、付き合うNPEはなるべく長期的な関係を築ける会社を選んだほうが良いでしょう。あまり節操のないNPE(例えば軽々しく転売しそうなNPE)とはできればお付き合いしない方が良く、業界で長く安定した事業を継続している会社を選ぶことをおすすめします。
また、日本の製造業に特有の事情(顧客第一主義であり、また社内調整に一定の時間が必要なこと等)をちゃんと理解してくれているNPEが望ましいですね。
一方で、よりアグレッシブなNPEと付き合ってみることにも意味はあります。彼らの行動・思考パターンを知ることで対策も考えられるようになりますし、付き合っている限りはそのNPEから攻撃される可能性は低くなります。
特許マネタイズと知財収支
特許マネタイズにおいては、特許法がわかってクレームが書けるだけでなく、会計・金融や経営の知識までも必要とされる点が、従来の知財業務と大きく異なるところであり、考え方を変えなければならないと感じました。
特許は出願登録費用や登録後の年金など様々なコストが掛かるため、取っただけでは当然赤字なわけです。しかしマネタイズがうまくいけば収支を改善することができ、コストの幾分かを回収することも可能になります。
ただし個人的には、製造会社の場合は知財の黒字化までを目指す必要はないと考えています。自社事業そっちのけでマネタイズに没頭しているようではあまり健全とは言えませんし、本業に必要な知財まで手放しては本末転倒です。
あくまでも、不要になった特許をマネタイズするということを基本としたほうが良いでしょう。それによって獲得した資金で自社事業のために必要な特許を購入すれば、費用を抑えながら自社の特許ポートフォリオを強化することもできます。
第2部 「NPEを活用した特許マネタイズ - NPEと戦略的パートナーシップ関係を構築し上手に使いこなす」
MEISTER TECH ALLIANCES ファウンダー・CEO 松本祥治 氏
米国カリフォルニア州サンディエゴ在住、主に米国〜カナダ〜日本企業間における特許の買い手・売り手をマッチアップする特許売買エージェント業、特許マネタイズ戦略及びディール交渉等コンサルテーションサービスを提供。
MEISTER TECH ALLIANCES LLCは戦略的パートナーとしてマイスター・グループ参加企業。 北米在住歴15年、米国・カナダ現地にて特許売買・ライセンスプログラム等各種戦略コンサルティングやスキーム構築業務等を実施した。これまでの売買契約済み通算特許件数約1万件強。
リバースエンジニアリング・侵害調査会社最大手テックインサイツ社カナダ本社アジア地域知財コンサルティングサービス部門副社長、NPE大手WiLAN社カナダ本社戦略提携部門副社長を歴任。
続いて、NPEの主戦場である米国の現場で活躍する松本さんから、特許マネタイズのビジネスモデルやNPEの特徴などについて最新情報をシェアしていただきました。
NPE業界の趨勢
2000年代に米国で訴訟を乱発し猛威を振るったNPEですが、その後のAIAやAlice判決以降、特許の品質が厳しく問われる時代になり訴訟件数も大きく減少しました。その中でも長期間生き残っているNPEは、特許を見る目がしっかりしていると感じます。
また2020年にはCOVID-19パンデミックがありましたが、その中でもNPE訴訟は減るどころか、むしろ増えているとのデータがあります。また特許売買も普通にリモートで進んでおり、来たるべき米国の経済再開に向けNPEの特許買付が活発化しています。実感としても積極的にお金を使いたがっているNPEが多いなと感じますね。
特許マネタイズの3つのモデル
① 他社に直接ライセンスや訴訟提起を行うモデル
まずライセンシングと聞いて思い浮かぶやり方ですが、実際にやるには色々と難しい部分があります。特許評価費用や弁護士費用も自前で用意しなければなりませんし、訴訟のやり過ぎは評判の低下にも繋がることがあります(かつてのアップル対サムスン訴訟のように)。また当然カウンター訴訟も受ける可能性があり、行動に移すためには相当な勝算と予算が必要となります。
② Outright Sales モデル
特許を事業会社やNPEに売却する方式で、売り切りなので短期的な収益を得たい場合に有効な手段です。
③ revenue share モデル
特許をNPEに譲渡して運用してもらうやり方です。アップフロント(前払金)+バックエンド(運用益)で短・中・長期の利益が見込めるほか、諸費用をNPEが持ってくれるので売主の負担も小さくて済み、カウンター訴訟を受ける可能性もゼロではないですが非常に少ない、おすすめの方法です。ただし後述のスタンディング問題への対策をしっかり行う必要はあります。
NPEの3タイプ、どんなNPEを選ぶべきか
NPEは特許の買取やライセンシング・訴訟といった活動のために多額の資金を必要とします。その資金の調達方法によって3つのタイプに大別できます。
① 株式市場からの資金調達
NPEの中には株式市場への上場を果たした公開企業もあります。彼らは株主に対して責任を負っていますので、四半期ごとの報告など活動の透明性を重視します。また訴訟での実力を備えていところが多く、特許の質だけでなくブランド力ある企業から特許を買いたがることがあるのも特徴のひとつです。
② VCからの資金調達
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金提供を受けているNPEも多いですね。どんな特許を購入するかの選択にも出資者の意向が影響することがあります。また、特許購入時には相対的に高いアップフロントを払う傾向があるように思います。
③ 特許訴訟ファイナンス会社からの資金調達
米国ではNPEに資金を提供する訴訟ファイナンス会社も複数存在しています。こうした資金を利用するNPEではお金の面で色々なスキームが絡んでくるので、利益分配の構造が複雑になりがちであると言えます。
こうした様々なNPEから付き合う相手を選ぶにあたっては、クライアントの事業をしっかり理解し、隠し事をせず行動に透明性があり、長期的な関係を築けるNPEが望ましいですね。その点、公開企業NPEはおすすめです。
NPEに需要のある特許とその選び方
最近は半導体チップの世界的な不足が話題となっていますが、いま最もNPEの調達優先度の高い特許技術カテゴリもまた半導体関連の特許であり、特許売買市場でも品薄になっています。その背景には、GAFA等の巨大IT企業が自前での半導体製造に乗り出したということがあります。
もちろんNPEが買うのは半導体関係にとどまらず、オートモーティブ、ヘルスケア、音声認識、白物家電など様々なジャンルで売買が盛んに行われています。
またマネタイズする特許を選ぶに際しては、なるべく広範囲な特許リスト(米国なら復活制度もあるので、放棄したものも含めて)をNPEに見せて、その中から自由に選んでもらったほうが上手くいくことが多いと思います。NPEと事業会社では特許に求める要素がかなり違うので、「これは要らないかな」という特許でもNPEが買っていくことがよく起こります。
ただし、とにかく大量の特許を用意しなければ特許売買が成立しないということでは決してなく、むしろ最近のNPEは特許の質を重視して探すようになってきています。ですからそもそも数件しか特許を持っていないという場合であっても、NPEが興味を持つ可能性は十分にあります。
ちなみに売却する特許の存続期間は最低でも5年は欲しいですね。また、完璧でなくてもある程度のEoU(Evidence of Use 侵害証拠、クレームチャート)の用意がもしあれば、NPEとしてはスムーズに買いの判断がしやすくなります。
NPE活用で避けられない問題、スタンディング
NPEを利用した案件で、相手からカウンター提訴を直接受けた例は、これまでの経験上あまり聞いたことがありません。ただしスタンディング(Standing)問題への対応は、きちんとやらなければならないところです。
スタンディングに関して重要な判例に、Lone Star事件(Lone Star Silicon Innovations v Nanya Tech. Corp. (Fed. Cir., 2018-1581))があります。NPEが譲渡を受けた特許について「実質的権利」を100%持っていると認められなければ、元の権利者も訴訟参加しなければならないとしたものです。
参考:「特許購入の際にほぼすべての権利を得ることが大切」
https://openlegalcommunity.com/patent-assignment-or-license-not-so-easy/
譲渡契約書の内容に注意する必要があります。ホワイトリスト以外のどこの企業にライセンスするかの決定や、転売の可否などに元の特許権者の同意が必要な契約などはNGです。
無用な訴訟に巻き込まれないよう、スタンディング問題に細心の注意を払っているNPEを選ぶことをおすすめします。
最後に、知財は事業を守るための「リーガルアセット」であると同時に「ビジネスアセット」でもあり知財部門のプロフィットセンター化に貢献できる存在です。何かお困りのことがございましたらいつでもご連絡ください。
おわりに
ウェビナー本編はYouTube上で公開しておりますので、ぜひご覧ください!
また、本動画とあわせてこちらの記事もご一読いただくことをおすすめします。
マイスター・グループでは特許運用のサポートを行っております。NPEが関心を示すかどうかの初期調査は無料で実施可能です。特許リストをお送りいただくだけで大丈夫です!
特許マネタイズやNPEの活用にご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
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