catch-img

欧州特許庁、「AIは発明者になれない」と判断!

Photo by Hitesh Choudhary on Unsplash


欧州特許庁(EPO)は2019年12月20日付のプレスリリースで、機械(AI)を発明者として出願された2件の特許出願(出願番号:EP 18275163.6、EP 18275174.3)を却下したと発表しました。

※プレスリリース:EPO says no to patent applications for inventions made by machines
https://www.epo.org/news-issues/news/2019/20191220.html


EPO、AIを発明者とする特許出願を認めず

本件は、Stephen Thaler氏が開発したAIである「DABUS」を発明者として各国に出願されたことで話題となったもので、2019年時点では米国、欧州、英国、さらにイスラエルを含む各特許庁に出願されているようです。

なおThaler氏自身はこの出願では、発明者ではなく出願人として名を連ねています。

各特許庁にて審査が進められた結果、まずEPOにて判断が示されました。

EPOは「出願書類に記載する発明者は機械ではなく人間でなければならない」という欧州特許条約(EPC)の規定に違反していることを理由に、2件の出願を却下しました。

EPC 第81条 発明者の表示

欧州特許出願には,発明者を表示する。出願人が発明者でない場合又は単独の発明者でない場合は,表示には,欧州特許を受ける権利の発生を示す陳述を記載する。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/epo-jyouyaku.pdf


EPC施行規則 規則19 発明者の指定
(1) 欧州特許の付与を求める願書には,発明者の指定を含める。ただし,出願人が発明者でないか又は単独の発明者でない場合は,その指定は,別の書類として提出する。指定書には,発明者の姓,名,完全な宛先を記載し,第 81条にいう陳述を含め,更に出願人又はその代理人の署名を付す。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/joyaku/document/houritu_jouyaku/jyouyaku_kisoku.pdf​​​​​​​


発明者の欄はどうなっているか?

ところで、公開公報でもDABUSを発明者として記載しているのかどうか気になったので、欧州出願の情報をEspacenetから確認してみました。

※以下、EP 18275163.6を例として取り上げます


まず、Espacenetの書誌事項欄では発明者の欄が空欄になっています。



そして公開公報のPDFを見ると、”The designation of the inventor has not yet been filed”(発明者の指定は未提出)となっていました。



また関連の英国出願では、発明者は”Not Yet Decided”とのこと。発明者未定としたままでも公報は発行されてしまうようで、ちょっとした驚きがありました。



ちなみに本件、「各特許庁に出願されている」とはいったものの、今回EPOが却下した出願の情報には優先権主張の記載がなく、他国でどのようなDABUS関連出願が出ているかはここからはわかりません。

そこでgoogle patentで確認したところ、Thaler氏がイスラエルで、それぞれ欧州・英国・米国出願を指定して優先権を主張していることがわかりました。



これらの関連出願の情報(各特許庁のデータベース)へのリンクは末尾にまとめています。ご参考になれば幸いです。


DABUSとはどんなAI?

DABUSは米国の発明家Stephen Thaler氏が開発したAI(公式HPによれば”Artificial Inventor”)で、人間が介入することなくアイデアを生み出すことができるAIだとされています。

その特徴は、「あるモノの新しい活用方法を思いつく」とか、「他のモノとの組み合わせ方を思いつく」といった、人間がアイデアを出すのと同じような流れで発想する機能にあります。

この機能を用いて、特許出願につながる発明もDABUSは生み出すことができるというわけですね。

※参照
http://imagination-engines.com/iei_dabus.php#


またDABUSが行った発明の特許出願は、英国サリー大学ロースクールのRyan Abbott教授率いる法律家グループが推進しています。

どうやら今回のDABUS関連出願を通して、「AIも発明者として認められるべきだ」と主張する活動を進めていくことも目的のひとつに掲げられているようです。

※参照
http://artificialinventor.com/about-the-team/


今後の動きにも注目

EPOは本件決定の理由を2020年1月中に公表する予定としています。

↓公表されました。


EPOの審査官が具体的にどのような過程で、「AIは発明者となることはできない」と判断したのかについて、詳細が明らかになることが期待されます。

単に人間の補助をするだけでなく、発明そのものを主体的に行うことを目的としたDABUSのようなAIが登場したことで、将来的により多くの「AIが発明者である特許出願」が行われ、「AIが行った発明を特許法上どのように扱うか」という問題が顕在化してくることは避けられないものと思われます。

実際に米国特許商標庁(USPTO)も2019年8月、AI特許に関する問題について意見を募集するリクエストを出しました。

※参照
https://www.federalregister.gov/documents/2019/08/27/2019-18443/request-for-comments-on-patenting-artificial-intelligence-inventions


今回さきがけとなったEPOを含め、各国特許庁がどのように判断するか、あるいは新たな法改正の動きがあるのかどうかも気になるところですね。


EPOが本件決定理由を公表​​​​​​​

2020年1月28日、EPOは本件決定の理由について公式ページで公表しました。

EPO publishes grounds for its decision to refuse two patent applications naming a machine as inventor

https://www.epo.org/news-issues/news/2020/20200128.html


結論としてはやはり、「発明者は自然人でなければならないため、AIは発明者にはなれない」との理由で、出願が却下されたということです。

発表内容についてまとめると以下のようになります。


  • EPOは、EPCに照らして発明者は自然人でなければならないと判断した。この考え方は国際標準でもある
  • 発明者を指定することによって一連の法的結果がもたらされるため、発明者の指定は必須である。特に、指定された発明者が発明者として正当な人物であること、そして当人が発明者であることに関連する権利から利益を得ることができることを保証するために必要である
  • 上記の権利を行使するには、発明者は(少なくとも)法人格を持っている必要があるが、AIは法人格を持たない
  • なお、機械に名前を与えただけでは基準を満たさない


決定理由本文(EPO記事の下部にリンクがあります)では、「AIも発明者として認められるべきだ」とする出願人の主張に反論するかたちで、EPCの条項やその立法過程、また各国の特許法を参照し、発明者が自然人であるべきかどうか等について検討した過程が示されています。

ちなみに、AIシステムやAIマシンが発明者たりうるかどうかは形式審査の範疇であり、「AIが行った発明には発明該当性があるのか?」といった実体的判断は行っていない、ということでした。


各国出願情報へのリンク


・EP 18275163.6の関連出願 (以下すべて出願番号)

EP 18275163.6
https://worldwide.espacenet.com/patent/search/family/063915228/publication/EP3564144A1?q=pn%3DEP3564144A1

GB 1816909.4
https://www.ipo.gov.uk/p-ipsum/Case/ApplicationNumber/GB1816909.4

IL 268605
http://www.ilpatsearch.justice.gov.il/UI/RequestDetails.aspx?ReqId=268605

US 2019/16524632
(未公開)


・EP 18275174.3の関連出願

EP 18275174.3
https://worldwide.espacenet.com/patent/search/family/064500314/publication/EP3563896A1?q=pn%3DEP3563896A1

GB1818161.0
https://www.ipo.gov.uk/p-ipsum/Case/ApplicationNumber/GB1818161.0

IL 268604
http://www.ilpatsearch.justice.gov.il/UI/RequestDetails.aspx?ReqId=268604#

US 2019/16524350
(未公開)


参考文献


・AIを発明者とする特許出願、欧州特許庁が認めず
https://japan.cnet.com/article/35147613/

→cnetの日本語記事


・Meet DABUS: An Artificial Intelligence Machine Hoping to Maintain Two Patent Applications in its own Name
https://www.filewrapper.com/filewrapper/meet-dabus-an-artificial-intelligence-machine-hoping-to-maintain-two-patent-applications-in-its-own-?filewrapper=true

→2019年8月時点の情報


・When Innovation Invents: Artificial Intelligence Issues at the U.S. Patent and Trademark Office
https://www.jonesday.com/en/insights/2019/09/when-innovation-invents

→AIが発明者となることで起こりうる諸問題の示唆


・The Artificial Inventor Project: Patent Applications
http://artificialinventor.com/patent-applications/

→DABUSが発明したとされる出願の概要、および「AIがした発明の保護の必要性」の主張。DABUS公式ページ


・AIにより生成された発明の特許性-特許制度改革の必要性
http://www.iip.or.jp/pdf/fellow/detail19j/kk_JP_Abstract_Summary_Ramalho.pdf

→AI発明特許に対する特許付与の正当性、AI発明特許では進歩性の意味合いが人間の場合と異なること


・IIP知財塾成果報告書 第11期(平成29年度)4.人工知能がした発明の特許法での取り扱いについて
​​​​​​​http://www.iip.or.jp/juku/pdf/th11/period11-04.pdf

→AIがした発明の発明者としての適格性を、特許法や民法、判例上の自然人の場合と比較しながらあり得る考え方を検討

ロジック・マイスター 編集部

ロジック・マイスター 編集部

ロジック・マイスター編集メンバーが、特許・知的財産に関わる皆様のために様々な切り口からお役立ち情報を紹介します!

お問い合わせ

特許調査や外国出願権利化サポートに関するお見積のご依頼、
当社の事業内容についてのお問い合わせなどございましたら、
お気軽にご相談ください。

こちらの記事もおすすめ

ひと目でわかる!米国特許年金の金額・期限【2020年最新版】

米国

2018-05-02更新: 2020-02-17

特許権を取得した後、権利維持のために支払う必要がある特許年金。 米国における特許年金制度は、日本と異なっている点も多いことをご存知でしょうか。 2018年に入って各種庁費用の改定が行われたこともあり、現状の制度を確認していきます。

【1時間2,000ドル!?】米国の特許弁護士、費用相場はいくらなのか?

米国

2019-06-18更新: 2019-11-15

とにかく高いと言われる米国の弁護士費用について、タイムチャージに着目して調べてみました。

【米国】Alice判決から5年、米国特許法101条の無効率が低下中?

米国

2019-11-15更新: 2019-11-15

米国特許法101条の特許適格性がないことを理由に無効となる割合が低下しているのではないか?ということを、最新の裁判例の分析から見ていきます。

新着記事

よく読まれている記事

タグ一覧

サイトマップ