
AIで特許明細書を自動作成できるツール「Specifio」を使ってみた
知財・特許業界においても、AIの利用可能性が取りざたされており、皆様の多くも関心を持たれている領域なのではないかと推測します。
そんななかで、今回は2017年にリリースされたアメリカの特許出願書類自動作成ツール「Specifio」をご紹介したいと思います。
当社出願を使ってのデモも行いましたので、ぜひ結果をご覧ください!
目次
Specifioとは
Specifioは、AIを利用して特許出願の書面を自動で作成してくれるサービスです。
できることはクレーム(請求項)、明細書の作成だけでなく、図面の作成も自動で行ってくれるのが大きな特徴です。
共同創業者でCEOのイアン・シック氏は、もともと研究者を志してナノ光学の博士号を取得していましたが、シリコンバレーの法律事務所で働いたことをきっかけに弁護士となりました。
数多くのベンチャー企業・テクノロジー系企業をクライアントとして支援し、ソフトウェア特許の出願を担当するなかで彼は、膨大な時間がかかっている明細書作成を効率化することによって、特許弁護士がもっと創造的な仕事に取り組めるようにしたいと考えるようになったそうです。
そこで、AI研究や自然言語生成の専門家で、現在は南カリフォルニア大学の教授も務めるケヴィン・ナイト氏とともに起業し、2017年にリリースしたのがこのSpecifioです。
利用方法
Specifioを利用するにあたっての手順を見てみましょう。
無料デモを行う場合、まずは予約画面から日時を予約して、Specifio社のスタッフと15分程度のweb面談を行います。
それが済んだら、あとはツールを利用する対象となるクレーム案をメールでSpecifio社に送付するだけです。何かソフトをインストールする必要などもありません。
Specifio側の処理が終わると、クレーム案を元にして自動作成された新しいクレーム、明細書、そして図面が送られてきます。
デモについては無料で利用することができます。標準料金は、利用1回につき1,000ドル(2018年7月現在)となっているほか、トライアルパッケージや月額制プランなども用意されています。
利用条件と注意点
Specifioを使用するためには、いくつかの条件と注意点があります。(すべて2018年7月現在)
- 英語であること
Specifioで作成できるのは、英語での特許出願に限られます。 - ソフトウェア発明であること
Specifioが対応しているのは、ソフトウェア関連発明のみとなっています。 - 元のクレームがメソッド(方法)クレームであること
物(「装置」など)を対象とするクレームを元にしてSpecifioを使用する場合は、あらかじめメソッドクレームになるように表現形式を変更しておく必要があります。
実際に使用してみた結果
米国特許登録となっている当社の特許(US 9,967,822)のクレームを元にして、Specifioのデモを行ってみました。
今回は、メソッドクレームである元特許のクレーム16(および、従属するクレーム17~20)を素材にします。
なお、こちらにクレームや明細書の全文を掲載すると非常に長く読みにくくなってしまうため、ダウンロードページにて今回の結果をまとめてご確認いただけるようにしました。
クレーム
元になったクレーム16は、
16. A method of controlling a portable handheld electronic communications end user terminal configured for electronic communications with a base station of a wireless network, the method comprising:
measuring a signal strength of the wireless network via a signal measuring module, wherein the portable handheld electronic communications end user terminal comprises a transceiver in communication with the base station of the wireless network, the signal strength measuring module, a sleep module, an activation module, and a terminal processing device;......(以下略)
これにSpecifioを使用することで、元のクレーム16~20に対応した以下3パターンのクレームが生成されました。
- クレーム1~5:システムクレーム
(A system configured for controlling......) - クレーム6~10:メソッドクレーム
(A method of controlling......) - クレーム11~15:プラットフォームクレーム
(A computing platform configured for controlling......)
このように、いくつかのクレーム形式を候補として提示してくれることが、クレーム自動作成機能の特徴となっています。
明細書
続いて明細書の自動作成です。
Specifioを利用すると、6,410ワード(英語)、20ページ分の明細書が出来上がりました。(元の明細書は7,758ワード)
公式サイトの記述によれば、Specifioはこれを約2分で完成させることができる、とのことです。
Specifioのメインにして最大の売りとなる機能は、この明細書自動作成だと言えるでしょう。
なぜなら、「従来、1ページにつき1時間を要していた」明細書の作成作業が非効率やコスト増大を招いている原因であるとして、これを短縮することがSpecifioの掲げる大きな目的だからです。
図面
Specifioは図面作成も自動で行います。
今回はハードウェア構成図が1点、フローチャートが3点、合計4点の図面が生成されました。
ちなみに図面のデータはPowerPointとVisioの2つのファイル形式で同じものを作ってもらえます。
そのため、作成されたものを下書きとして自由に編集することも可能です。
ところで、フローチャートはすべて単線のものとなっていることにお気づきいただけたかと思います。
現状では、Specifioが作成できるフローチャートは単線のみで、Yes/Noなどの分岐のある形式では自動作成できません。
ただ、ソフトウェア特許であれば通例、分岐ありのフローチャートが必要になるかと思われますので、必要に応じて自分で作成・編集することになります。
元特許の図面(参考)
比較のため、元特許の図面「FIG2~4」もご参照いただければと思います。
実用性は?
ここまで、Specifioを試してみた結果を簡単にご紹介しました。
では実際にこれを使うとして、どの程度の実用性があるものなのでしょうか?
結論を述べると、米国仮出願をする場合の出願書面や、明細書の下書きとしてなら使える可能性があるのではないかと思われます。
フローチャートについては、分岐型の判断フローが書けないということで、やはり実用性からみて少し引っかかるところかもしれません。
もっとも、ソフトウェアの明細書でフローチャートやハード図面の作成は必須に近いことを考えれば、Specifioには最低限の機能が備わっている、と言えるのではないでしょうか。
今後の展開について - CEOインタビュー
今回のデモにあたって、Specifioのイアン・シックCEOにインタビューしたところ、次のように語っていただくことができました。
① これまでに、どのようなクライアントがspecifioを利用していますか?
イアン・シック氏(以下、シック):主に特許事務所を顧客にしていますが、企業の法務部(特許部門)にもアプローチを始めたところです。
現在、顧客の3分の1が一般的な国際業務を行う特許事務所です。その他は、特許関連サービスを行う会社で、小規模から大手まであります。
② 今後、さらにクライアントを増やす計画はありますか?
シック:技術が一層発展していくこと、また出願準備にかかる経済的な事情によって、今後数年で明細書の自動作成が主流になっていくと考えています。
これまで我々のサービスがクライアントを惹きつけてきたことはもちろんですが、一方で我々と同じことをしようとしている会社や、テクノロジーを駆使して明細書作成を効率化しようとする会社も出てきています。
これらのことは、自動化への旺盛な需要が存在することの証拠です。
③ Specifioを利用するメリットは、どのような点にありますか?
シック:明細書作成を迅速化することで、以下の効果が期待されます。
まず特許事務所の弁護士にとっては、自動化によって出願にかかるコストを削減できます。固定料金制の場合であれば、利益を増やすことができます。
また、時給の高いベテラン実務者たちの仕事であっても予算内に収めることが可能になりますし、担当者の人数を増やさずともより多くの仕事を進めることができるようになります。
次に、明細書作成の自動化は、法律事務所のアソシエイト弁護士やパテントエージェントといった人々にも、自らの仕事でより多くの付加価値を提供することを可能にします。
なぜなら、より価値の高いタスクに力を注げるようになるからです。
さらには明細書作成における機械的な作業を素早く行うことで、アソシエイトはトレーニングを行うこともでき、クライアントや校閲者の要求や嗜好を満たしつつ、同時に技術面に注力することができます。
一方、企業の社内弁護士について言いますと、貴重な体力を温存しながらなおかつ質の高い出願を行うことができるようになり、業務量を調整することもできます。
私たちはよくこんな表現を使うのですが、明細書作成という業務において、自動化とは「新たなアウトソーシング」です。
社内でクレーム作成を行えるようにすることにより、社内の専門家たちが業務に対する知識を最大限に活かし、自社の知財の価値を高めることが可能になります。
さらに、自動作成においては、通常の特許出願によくみられるような人為的なミスは起こりません。
人為的ミスを審査の段階で修正することになると、中間処理に時間やコストがかさみますが、自動化によってこれを防ぐことができます。
④ なぜ現在、Specifioはソフトウェア発明だけにしか使えないのでしょうか?
シック:サービス開始の1年目は、私たちのコア技術を使って完璧なサービスを作るため、まずはソフトウェアという1つの分野に集中する戦略を取ってきました。
これからは徐々に、他の特許分野にもサービスを広げていこうと考えております。例えば、機械、電気、組成物といった分野から始めていく予定です。
⑤ フローチャートは直線のものしか作成できないようですが、分岐したものも将来的に作成できるようになるのでしょうか?
シック:Specifioのフローチャート図は全て直線です。
文字情報のみで複雑なフローを推測することは人間の弁護士であっても難しいことであるため、自動化する対象に向いているとは言えません。
しかし、Specifioの図面はPowerPointやVisioで編集可能な状態で出力されますので、我々の希望としては、複雑なチャートが必要であれば簡単に修正できるようになっています。
おわりに
シック氏も指摘しているとおり、AI技術を駆使した自動化サービスを取り入れることで業務効率化をはかる企業は、特許業界においても今後ますます増えてくることでしょう。
その最先端の事例として、ご参考になれば幸いです。
Specifioについてより詳しく知りたい場合は、当社にお問い合わせいただくか、Specifioの問い合わせページまでご連絡ください。
◆今回のSpecifioデモの結果資料のダウンロードはこちらから